第23回移住者インタビュー 「自分自身が思う存分わくわくした生活を送って、その滲み出るわくわくで周りの人をわくわくさせられたら嬉しいですね。」田中 大樹さん

田中さん トップ

田中 大樹(たなか ひろき)さん

長崎県佐世保市出身

地域おこし協力隊

地域の「あったらいいな」を叶えるため、新たな事業を始めている。

 

-御出身はどちらでしょうか。

長崎県の佐世保市です。

 

-陸前高田市へ移住するまでの経緯を教えてください。

高校卒業を機に長崎県を出たのですが、その後転々としていて、福岡県で幼稚園の先生をしたり、奈良県の保育園で保育士をしたり、一度実家に戻って太陽光パネルの設置で土木業を経験したり、お金が貯まった28歳の頃には全国を旅したりしていました。旅をしている時に熊本地震が発生し「地元九州の力になりたい」と旅を中断し、2週間だけの予定でボランティアに向かったのですがもっと続けたくなり、その後、岩手県岩泉町や福岡県東峰村にもボランティアに行きました。そして2年が経った頃に貯金が無くなってしまいまして・・・。そんな時にお世話になっていたボランティア団体の本部がある宮城県石巻市でしばらく働いてお金を貯めたらと声をかけていただき、2017年に石巻市へ引っ越し働いて、その後、2019年の4月に陸前高田市へ移住しました。

 

-陸前高田市に来られたきっかけを教えてください。

石巻市に住んでいる時に、熊本地震のボランティアの時に知り合った大学生3人が遊びに来てくれまして、当初全日石巻に泊まる予定でしたが最後の1泊を気仙沼の「ゲストハウス架け橋」に泊まりたいということになりました。私も暇だったので一緒に遊びに行ったのですが、そのゲストハウスに来ていた陸前高田の方から話しかけられ、翌月に陸前高田市に遊びに行ったことがきっかけです。

予定を変えてゲストハウスに泊まったり、その方に話しかけられなければ陸前高田に来なかったので、ご縁が重なったのかなぁと思っています。

 

-移住を決めたきっかけを教えてください。

私は陸前高田には復興支援のために移住したつもりはなくて、過疎地で面白いことをやっている人たちが居て、同じように面白いことをやりたいと思って移住しました。実は、陸前高田市で出会った友人から「もうすぐ震災から10年になる。震災から10年経った時に〝被災地〟陸前高田じゃなくて、〝面白い田舎〟陸前高田、面白いことをやっている地方の都市があるぞって言われたいんだよね」って言葉を聞いて確かにと感じました。

また、個人的には陸前高田市というと「奇跡の一本松」ばかりが目立っているように感じていて・・・。これだけ自然があって、美味いものがあって、人も良いですから、友人のその言葉を聴いて、陸前高田を「面白い田舎にしたい」と思ったのがきっかけです。

 

-復興のためというよりは、復興の先をどうしていくかということを考えているということでしょうか。

陸前高田市に復興の活動をされてる方は沢山いらっしゃるかと思います。なので、私は過疎地を面白くしようとする方に頭を使おうかと。ただ、復興のことを全く考えていないわけではなくて、復興とは別の視点・入口から陸前高田に来てもらって、そこから復興について知ってもらったり、逆に復興から陸前高田の魅力を知ってもらうこともできると思うので、自然と復興のことも考えています。

 

田中さん① 家の前の桜

≪田中さんの家の前に咲く桜。昔横田町で病院をしていたお医者さんが植えたらしい。≫

 

-今回、インタビューをさせていただいている田中さんの御自宅は、元々空き家だったということですが、住むまでの経緯を教えてください。

陸前高田市に来て半年ぐらいは友人が譲り受けた小友の空き家に住みながら、横田の空き家を探していました。その時、家の目の前に大きな桜の木がある空き家を紹介していただき、是非ここに住みたいと思い所有者を探して、ご近所さんに所有者に繋いでいただき、無事にお借りすることができました。これも本当にご縁でしたね。

この家の片づけをしている時は小友と横田の市内2拠点生活を送っていましたが、楽しかったです。

 

-空き家だと、家財道具が残っていることもあると聞きますが、この家はどうでしたか。

この家も家財道具は残っていたのですが、私はそれが楽しいと感じるタイプなので。このいわゆる〝どんぶく〟という服もこの家から出てきたものですが、普通の人だったら荷物になるなぁとか思ったりするかもしれないですけど、私は気に入って使っているぐらいです。いずれ民泊っぽいことをやりたいなと思っていて、泊まった人に着てもらったりして使えたらいいなと思っています。中にはカビだらけの布団とか困るものもあるんですが、大変だと思いつつ、普通だったら捨てられるようなものでも自分にとっては宝物のようなものもあるのですごくわくわくしますね。

 

-今でもそのようなものは出てくるのでしょうか。

2階は生活できるように片付けましたが、1階は手を付けられていないところもありますし、離れがあるのですが1階は倉庫みたいになっていて、そこにはまだたくさん物があります。元々住んでいたおじいちゃんが大工さんでおばあちゃんが畑をやっていたので、その道具とか使えそうなものが残っていて、これもわくわくしますね。

この部屋にあるカーテンやテーブルとかも全部残っていたもので、雑貨とかも置いてあったんですが、「センスいいなぁ」と感じていて気に入っています。

 

奈鷹さん② バルコニーでの朝ごはん

≪泊まりに来た友人とバルコニーで朝食を食べている様子。田中さんいわく「めっちゃ最高!」とのこと。≫

 

-他に気に入っているところなどはありますか。

このバルコニーですかね。朝は最高に陽当たりが良くて、春は家の前の桜を眺めながらコーヒーを飲んだりしています。

昨年、友人や民泊で学生を泊めた時は朝ごはんにバルコニーで川の音を聴きながらアユの塩焼きを食べたり、そういった都会で出来ないことをできる家なので気に入っていますね。近々、ハンモックをつけて本を読めるようにしようかと企てております。

 

-住むにあたり修理などは必要だったでしょうか。

本格的な修理はあまり必要なかったですが、この家は築50年以上経つので、多少の雨漏りや畳がへこんだりしていました。雨漏りは2階の雨どいを掃除することで直りましたし、畳も床下の木を張り替えればよいので、落ち着いたら自分でやろうと思っています。また、トイレにドアがなくて中が見えてしまう状態だったので、知人に協力していただき素敵なドアを自分で作りました。

 

-この家に住むことで大変だったこと等はありますか。

空き家になって1年経っていましたが、綺麗好きなおばあちゃんが住んでいたため比較的綺麗でしたし、大変と思うことはあまりなかったです。ただ、買い置きしていた油や醤油が沢山出てきて、使えると思ったら賞味期限が何年も前で使えなかったり、食器用洗剤が沢山出てきたり、それは逆にありがたかったですが、一長一短ですけどそこも楽しいところです。

それから、補助制度があればいいなと思いました。トイレが汲み取り式で、簡易水洗に変えるため業者に見積もりを頼むと30万円ぐらいかかると言われ・・・。結局自分で簡易水洗に変えて6万円ほどでできましたが、補助金なんかがあれば負担が少なくて済むなと思いました。ちなみに自分で水道管も引っ張ったので軽く水漏れしてます(笑)

 

田中さん③ リノベーションしたトイレ

≪田中さんの手によって布の仕切りしかなかったトイレに素敵なドアが出来ました!≫

 

-お庭に車がありましたが、この地域での移動はやはり車でしょうか。

基本、車ですね。あの車で全国を旅していましたので愛着があるのと、たぶん陸前高田に1台だけの「佐世保ナンバー」にちょっと誇りを持っていて、まだ変えたくないと思っています。

 

-今まで住んでいたところは、岩手より南の地域が多かったようですが、冬の運転は大変ではないですか。

以前、岩泉町に災害支援で1年弱住んでいたことがあり、雪も沢山降りますし、凍結もあるのでボランティア仲間に教わりながら鍛えてもらいました。同じ岩手でも陸前高田は雪が少ないですし、その時の経験があるので助かっています。

 

-陸前高田市は交通の便があまり良くないところがありますが、何か影響はありますか。

私は車があれば全然問題ありません。お酒もあまり飲まないので。あるとすれば友人が遠いところから来てくれた時に「どこまで行けばいいの」とか「近くに駅やバス停はあるの」とか聞かれる時があるぐらいです。

 

田中さん④ ノマドワークの様子

≪海を眺め、波の音を聴きながらのノマドワーク。創作意欲が沸き立つとのこと。≫

 

-地域おこし協力隊ということですが、どのような活動をされているのでしょうか。

陸前高田市の委託を受けて移住定住促進事業を行っているNPO法人高田暮舎に所属していて、空き家バンクを担当しています。高田暮舎ではけせん暮らしと同じように「い・しょく・じゅう」が大事であると考えていて「い」は居場所、「しょく」は仕事、「じゅう」は住むの「居職住」になります。私の担当する空き家バンクはその中の「住」、広報担当は仕事の紹介などで「職」、居場所づくりとして移住前のフォローや移住後のコミュニティづくりで「居」にあたる事業を行っています。

 

-空き家バンクを担当されているということですが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。

空き家バンクに登録するための書類等準備のサポートや不動産屋とのやり取り、そのサポートをして、家を売りたい・貸したい所有者と家に住みたい人のマッチングを行っています。

 

-空き家の情報は市等から提供されるのでしょうか。それとも自ら探しているのでしょうか。

民生委員の定例会等や地域の方々とお話しさせていただきながら、空き家の問題として「放置していると獣が入る」や「朽ちてしまうと危険」ということをお伝えしながら、情報を得るなどして、自分たちで探しています。

 

-以前、多くの空き家があるものの、空き家の状況により登録が難しくなっているところも多いという話を聞いたのですが、空き家を登録するのは難しいことなのですか。

もちろん空き家の期間が長ければ長いほど厳しくなり、10年20年放置されると状態が悪くなり、空き家バンクへの登録は難しいですね。

現在、地方への移住が注目され、空き家の問題を包括的に解決しながら、空き家バンクに登録できるものはすぐに登録して、移住者が相談しやすいようにしようとしています。

 

-空き家バンクを見ると20件以上の空き家が登録されていて、半数以上の募集が既に終了しているようですが、担当者としては空き家を求めている方は多いと感じますか。

陸前高田はアパートの家賃が最低5、6万円ぐらいですが、空き家バンクは5万円以下の物件も多くそれを求めに来る人は多いです。また若者の移住者はせっかく田舎に来るから、民家や一軒家に住みたいというニーズも多いと感じています。他のスタッフも空き家を探していたり、住んでいたりしますので憧れのような気持ちを持っているのでしょうね。

ただ、一軒家は住んでみないと分からないことも多いので、若い方は賃貸で試しに住んでみようと考えている方も多いと思います。

 

田中さん⑤ 託児の様子とロゴ

≪託児を行う田中さんと友人が作ってくれたという『一休3』のロゴ≫

 

-田中さんは最近、新しい事業を始められたという話を伺ったのですが、どのような事業を始められたのでしょうか。

 一言で言うと「あったらいいな」を形にしてみる事業です。陸前高田にはないものが多いと感じていて、例えば気軽に子どもを預けられるファミリーサポートセンターなどのようなサービスがありません。子育て中の方の「子どもを気軽に預けられる場所があったらいいな」という声を聞き、私は6年半保育士をしていましたし、ある程度どんな子であるかを聞けば大抵の子どもを預かれるスキルを持っていましたので、その「あったらいいな」を実現しようと託児の事業『一休3』を2020年9月にスタートしました。『一休3』では通常の託児以外にも講演会やセミナー等での託児もさせてもらっています。

また、田舎には仕事が無いと言われがちですが、農家さんなどは1年間の雇用は難しいけど繁忙期に人手を必要としている現状がある一方で、農業体験をしたい若者や子育て中で短時間しか働けないママさん、移住したけれどお金に困っているなどという声も聞きました。その人たちをマッチングさせるような事業があればそれも双方の「あったらいいな」を実現することになると思い、『百匠人』という事業にも取り組んでいます。これを活用してゆくゆくはどこに所属するでもなく、季節ごとに農家さんなどのお手伝いをして生計を立てる人が出てきても良いと思いますね。そして田畑や季節の話(二十四節気のような)を聞かせてもらったり、草刈り機を使ったことがない都会の若者が使い方を教わったりするなど、昔は〝生業〟として当たり前だったことを稼ぎながら学ぶことで「生業の継承」に繋がればいいなと思っていて、まずは自分自身が様々な農家さんの所で経験させてもらっています。

まだやりたいことがいくつかあるんですが、今は忙しくて少し止まっています。

 

-この地域は起業する環境としてはいかがでしょうか。

はっきりとした基準があるわけではないんですが、先ほど言ったようにないものが多いです。例えばゲストハウスなどは都会にはありますがここにはないので、競合が無いという意味では「始めたもの勝ち」なので起業しやすいのかなと思います。

私も他に託児をする人が出てくれば、その役目を任せようと思いますし、ニーズが無ければ辞めることも考えています。そのぐらいの感覚で挑戦ができるところが良いところだと思います。

 

田中さん⑥ 稲刈りの手伝い

≪友人と稲刈りのお手伝いをしている様子。よく「農家にいそう」と言われるらしいです。≫

 

-やりたいことがいくつかあるということでしたが、どのようなことをやりたいと考えているのですか。

農家さんの廃棄してしまう野菜等いわゆる「ハネモノ」を活用して、定額制で定期的に高齢者などに地域内で取れたB級品の野菜など届ける「高齢者×サブスク」の事業を考えています。市のはずれの方には移動販売を利用している高齢者も多いのですが、同じ種類の大きな袋の野菜が来ることもあるようで、そんなに量を必要としていない方に色々な種類で使いやすい量の野菜を届けることができますし、私は高齢者とお話しするのが好きなので、見守りという観点でもよい事業になるのではと思っています。

また、農家さんは人手が欲しくてもなかなか賃金をお支払いすることが難しい方も多いので、「ハネモノ」を少しでも収益に繋げて、人手を増やせるようになれば、生産量が増え、収益が増えることでまた人を雇ってという流れができます。

そして、生産だけでなく販促も必要です。私自身がマーケティングやコピーライティングを学びたいと考えており、農家さんに売り方や販路をお伝えすることで売れるようになれば、人手が必要になることもありますし、農家さんたちの「あったらいいな」を実現しつつ、売って雇って作ってまた売っての流れを形成できると思います。

 

-面白そうな事業ですね。他にはどんなことをやりたいですか。

先ほど空き家の話しの際にも言いましたが、民泊も今後やりたいことのひとつです。私が車中泊で旅をしていた時、自転車などで旅をしている人に出会えなかったので、庭で車中泊してもいいようにして旅人のご縁が紡がれる場所にしたいですね。

他にも、実は旅しているときに「全国のご当地グルメを出すカフェをしたい」という夢があったのですが、料理の腕がないので断念したことがあって。リベンジというわけではないですが、この家をそのまま使って田舎の民家に住んでみたい人などが家の好きなところでコーヒーを飲めるカフェにしてみたいです。掘りごたつで飲んだり、バルコニーで飲んだり、縁側で飲んだり、川に行って飲んだり。そうすることで掘りごたつに座って飲んでいる時に他のお客さんが来て会話が生まれることもあると思いますし、私がカフェをしながら子どもの遊びを見守って、その間にお母さんたちは2階や離れで自分の時間を楽しめるようなカフェといった普通のカフェだとできないことができる場所にしたいです。

 

田中さん⑦ トトロの案山子

≪ご近所さんが作ったトトロの案山子。2020年の新作はゴジラだったようです。≫

 

-陸前高田市に来てから楽しんでいることやおすすめのスポットを教えてください。

最近、朝に窓を開けると金木犀の香りがして、その香りを残そうとハーブチンキという度数の高いお酒に漬けて作る芳香剤のようなものを作ったり、元々植えてあったかりんを使って果実酒やかりん飴を作ったり、衣装ケースを使って田植えをしたり、梅を漬けてみたり、暮らしを楽しんでいます。

おすすめスポットは、身近なところでいくと家の近くにある小坪の滝がおすすめです。綺麗な沢があって、行く途中の家にはトトロなどの案山子があったりします。

また、特におすすめしたいスポットは広田湾です。広田町の方に湾沿いに行くと開けたところがあり、そこの夕陽が最高で、タイミングが良いと夕陽が牡蠣いかだを染め、カモメの声が聞こえて気に入っています。たまにキャンプイスを持って行ってノマドワーカーになったりすると最高なんですよ。

 

田中さん⑧ 広田湾の夕陽

≪時間を忘れられるという、広田湾の夕陽≫

 

-移住する際に大変だったことや住んでいて苦労したことなどありますか。

何でも前向きに考えてしまうので特にないのですが、あえて言うのであれば「住む」と「通う」は違うと感じました。小友に住んでいた時にそこのコミュニティに遊びに行っていたんですが、お酒が好きな方が多く毎日のようにお酒を飲んでいて正直疲れてしまって・・・。それでも通っている時は楽しいけど、住んでしまうとみえてくるものが違ってくるのを感じて。住むのと遊びに行くのでは地域の人の反応も変わるので、そこが大変と感じる人もいると思います。

 

-最後に今後の目標などあれば教えてください

たくさんのご縁を紡ぐ人になりたいと思っています。自分が今までたくさんのご縁に助けてもらっている人生なので。あとは自分自身が思う存分わくわくした生活を送って、その滲み出るわくわくで周りの人をわくわくさせられたら嬉しいですね。何年か経ったときにあの時あの人がいたから前に進む力もらえたかもみたいに思われるぐらいでそんな縁の下のような、気づいたらそこにはまって、自分の存在があることで事が回るような。やる人が居なくて今は動いていないところに行ってそれを動かして、地域の「あったらいいな」というものを叶える歯車のような存在になりたいですね。